「めんそーれ」だけじゃない。9月18日「しまくとぅばの日」に知る、島の言葉の豊かさと危機

今日9月18日は「しまくとぅばの日」です。沖縄を訪れた人なら、「めんそーれ(ようこそ)」という響きを一度は耳にしたことがあるでしょう。でも、それは島の言葉の世界への入り口にすぎません。しまくとぅばは、ひとつの方言ではなく、島や集落ごとに受け継がれてきた、いくつもの言葉の総称です。なぜそれほど多様になったのか。そして、いまなぜ継承が急がれているのか。9月18日をきっかけに、言葉の奥にある沖縄の歴史と人のつながりをたどります🌺
「しま」は島であり、故郷でもある
「しまくとぅば」を直訳すると「島の言葉」。ただし、ここでいう「しま」は、地図上の島だけを指すとは限りません。生まれ育った集落や、心のよりどころである故郷まで含む言葉です。そのため、しまくとぅばは単なる「沖縄の方言」ではなく、「自分の生まれ故郷の言葉」とも説明できます。
沖縄県の取り組みでは、しまくとぅばを国頭・沖縄・宮古・八重山・与那国の5地域に分け、さらに各地域の集落で異なる発音や表現を書き分けられるよう整理しています。一方、奄美を含む琉球列島の言葉全体を見渡すと、言語学的には奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語の六つに大別されます。地域をまたぐと意思疎通が難しいほど差がある言葉もあり、まさに「一島一言葉」と呼びたくなる世界です。
たとえば「ありがとう」も、沖縄本島の「にふぇーでーびる」、宮古の「たんでぃがーたんでぃ」、八重山の「みーふぁいゆー」など、地域によって響きが変わります。表記や発音には島・集落ごとの違いがあるため、ここで挙げるのはあくまで代表的な一例。同じ沖縄県の中に、これほど豊かな言葉の地図が広がっているのです。
琉球の歴史が育てた、多様な響き
この多様性の背景には、琉球列島の地理と歴史があります。島々は海によって隔てられ、集落ごとの暮らしの中で言葉が少しずつ変化しながら伝わってきました。琉球王国の時代には、中国や日本、東南アジアとの交流を通じて文化が育ち、組踊や琉球舞踊、沖縄芝居、島唄などにも、それぞれの地域の言葉が刻まれています。
だから、しまくとぅばを守ることは単語を保存するだけではありません。昔話や歌、祭りの掛け声、家族への呼びかけ方まで含めた、地域の記憶を残すことです。「めんそーれ」が観光客を迎える言葉なら、しまくとぅば全体には、暮らしの中で人と人を結んできた時間が詰まっています。
ユネスコが「消滅の危機」と指摘した島の言葉
豊かな一方で、しまくとぅばを取り巻く環境は厳しくなっています。近代以降の標準語教育や生活環境の変化、戦争や都市化、世代間で言葉を使う機会の減少などが重なり、若い世代ほど「聞いたことはあるけれど、自分では話せない」という状況が広がりました。
2009年、ユネスコの「世界の危機言語アトラス」では、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語が消滅の危機にある言語として示されました。なかでも八重山語と与那国語は「重大な危機」、ほかの四つは「危険」とされます。これは、言葉がすぐ消えるという宣言ではなく、子どもたちが母語として学ぶ機会を失わないよう、記録と継承を急ごうという警告です。
条例から20年。使う場面を取り戻す挑戦
危機を背景に、沖縄県は2006年3月31日、「しまくとぅばの日に関する条例」を制定し、毎年9月18日を記念日に定めました。日付は一般に「く(9)・とぅ(1)・ば(8)」という語呂合わせで説明されます。条例は、しまくとぅばを沖縄文化の基層と位置づけ、県民の関心と理解を深め、普及を促すことを目的にしています。2026年は制定から20年という節目の年です。
県は、しまくとぅば普及推進計画に基づき、しまくとぅば県民大会や検定、講習会、出前講座、地域の語り部の育成、会話集や学習教材の作成を進めています。2022〜2024年度には、県内222地域で文法調査票などを集め、しまくとぅばアーカイブの作成も進めました。学校や家庭だけに負担を集めるのではなく、地域・行政・文化団体が一緒に「聞く・話す・残す」環境をつくろうとしているのです。
愛着はある。でも、使う機会が少ない
最新の令和6年度しまくとぅば県民意識調査では、しまくとぅばを「主に使う」「共通語と同じくらい使う」「挨拶程度に使う」と答えた人の合計は42.5%でした。2013年度の58.0%を大きく下回る一方、しまくとぅばに「親しみを持っている」「どちらかといえば持っている」と答えた人は77.1%。子どもたちに「使えるようになってほしい」と考える人も78.2%にのぼります。
つまり、言葉への愛着や継承への願いがなくなったわけではありません。話せる人が少なくなり、家庭や地域で使う場面が減ったことが大きな課題です。県の調査でも、家庭で教えない理由として「自分が話せない・使えない」「話す機会がない」が上位に挙がっています。使いたい気持ちと、使える環境の間にある 隔たりを埋めることが、これからの継承の鍵になります。
まずは一言。言葉は使う人の数だけ生きる
旅先で「はいさい」「にふぇーでーびる」「ちばりよー」と声をかけるのも、しまくとぅばに触れる小さな一歩です。ただし、地域や相手によって自然な言い方は異なります。正解を急いで暗記するより、「この地域では何と言いますか」と尋ね、教えてもらった言葉を大切に使うほうが、島の言葉への敬意につながります。
しまくとぅばは、過去の遺産として展示されるだけのものではありません。家族の笑い声、集落の祭り、旅人を迎える挨拶の中で、いまも息をしています。9月18日を、故郷の言葉を聞き直し、誰かに一言話しかけてみる日に。言葉は、使う人がいる限り、未来へ渡っていきます。
まとめ
しまくとぅばは、沖縄の一つの方言ではなく、島や集落の記憶を映す多様な言葉の総称です。消滅の危機に直面しているからこそ、記録するだけでなく、日常の挨拶や会話の中で使う場面を取り戻すことが大切。今日の「めんそーれ」を入口に、島ごとに異なる響きへ耳を澄ませてみませんか🌺
沖縄県「しまくとぅばの日に関する条例」 / 沖縄県「『しまくとぅば』の普及継承に関する取組」 / 沖縄県「令和6年度しまくとぅば県民意識調査」 / 沖縄県立図書館「沖縄の方言を調べる」 / 沖縄県「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」


