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くすけー ─ くしゃみに「魂」を守る言葉、沖縄に残るやさしいおまじない

編集:365おきなわ編集部
くすけー ─ くしゃみに「魂」を守る言葉、沖縄に残るやさしいおまじない
「くすけー」を題材にしたイメージイラスト(提供画像)。登場する人物や風景は実在の人物・場所の正確な再現ではありません。

くすけーとは、くしゃみをした人にかける沖縄の言葉です。 くしゃみをした瞬間、「くすけー!」と声が飛んでくる──それが沖縄の日常です。初めて聞くと驚きますが、実はこれは英語圏でくしゃみに「Bless you」と声をかけるのと同じ、くしゃみをした人を気遣う言葉なんです。

この記事の要点

  • 意訳すると「お大事に」。英語の「Bless you」にあたる気遣いの言葉
  • 背景には、くしゃみで魂(マブイ)が抜け、マジムンに奪われるという考え
  • 直訳は「糞食らえ」。マジムンを追い払う強い言葉が由来と伝わる
  • 由来の民話では、唱える相手は赤ちゃんや子どもだった

くすけーとは ─ 「お大事に」と声をかける沖縄の風習

「くすけー」は、くしゃみをした人に対してかける沖縄の言葉です。日本語に意訳すると「お大事に」。英語なら「(God) bless you」にあたります。初対面の人にも、見知らぬ人にも声をかけられる気軽さがあり、くしゃみが連発すれば「くすけー、くすけー」と何度でも続きます。なお、表記や発音にはゆれがあり、「くすくぇー」「くすっくぇー」といった言い方も伝えられています。

ただし、このかわいい響きの言葉、直訳は少し物騒です。沖縄県史の民俗篇を引く国際日本文化研究センターの伝承カードでは、「クスクェー(糞食らえ)」と唱えた、と要約されています。どうしてこんな言葉がおまじないになったのか、その答えは沖縄の魂観にあります。

くしゃみに「魂(マブイ)」が抜け、マジムンが待ち構える

沖縄では、人には「マブイ」と呼ばれる魂があると考えられてきました。そしてくしゃみをすると、そのマブイが身体から抜け出てしまう──抜けた魂を奪うために、マジムン(悪霊・魔物)が待ち構えている。そう信じられていたため、「くすけー」と叫んでマジムンを追い払い、魂を守ろうとしたのです。

実はこの発想、沖縄だけではありません。くしゃみのあとに言葉をかける風習は、本土や海外にもあります。魂が抜ける、寿命が縮む、といった説明は資料によって異なり、県の博物館が世界の起源まで一つの説にまとめているわけではありません。

由来は民話にある ─ 閻魔王と、子どもの魂をめぐる物語

「くすけー」の由来としては、奄美・琉球に伝わる民話が知られています。沖縄県立博物館・美術館が記録した「クスケー由来(シマグチ)」では、祝いの席に招いた三線引きの女が実は骸骨の化け物だったことから始まります。墓に戻った女は後生の閻魔王から罰を受けようと、「子どものくしゃみをさせてマブイ(魂)を取ってくるので許して欲しい」と願い出ます。すると閻魔王は「人間は物知りで、くしゃみをしたらすぐ『くすけひゃー』というからマブイは取れない」と答えたのです。この様子を聞いていた父親が家に帰り、息子がくしゃみをしたらすぐ「くすけひゃー」と唱えたことで子は守られました。「クスケーということばは、その時、後生の閻魔王が人間に教えてしまった言葉である」──この民話は、まさにその結びで締めくくられています。

沖縄市教育委員会が記録した山原の伝承(『むかしばなしⅠ』)にもよく似た話が伝わっています。子どもの祝いの席にマジムンが出現し、墓の中の声が「子供の鼻をくすぐってクシャミをさせて(魂を)取りなさい」と告げるのを聞いた妻が、「クシャミをしたらクスケー、2回したらメークェーといいなさい」と教え、水を吹きかけたことで子どもの魂は守られた──という物語です。

いずれの話でも、言葉をかける相手は赤ちゃんや子どもです。くしゃみをした子どもの魂が奪われないよう、大人が先んじて「くすけー」と唱える──この風習は、赤ちゃんに向けられてきたものだったのです。

本土の「くさめ」、世界の「Bless you」

本土でも、くしゃみをめぐる言葉の風習はありました。くしゃみの古い呼び名「嚔(くさめ)」は、唱える言葉だったとも説明されます。平安文学にくしゃみのあとに呪文を唱える様子が描かれることもあり、くしゃみ後の言葉は昔の日本でも珍しくなかったようです。一つの古典に起源を固定する公式の定義があるわけではありません。

一方、海外ではどうでしょう。英語圏では「Bless you(神の祝福あれ)」、ドイツ語圏では「Gesundheit(健康)」と声をかける、といった例がよく紹介されます。くしゃみに言葉を添える風習は各地にあり、くすけーもその仲間として比べられることがあります。世界の言葉の由来までを、沖縄の民話資料が同じ起源だと証明しているわけではありません。

まとめ ─ 「くそ食らえ」が「お大事に」に変わるとき

直訳は「クソ食らえ」でも、実際のくすけーは「お大事に」「ご加護を」という意味の、相手を思いやる言葉です。魂を奪おうとするマジムンに向かって放たれる言葉だからこそ、強い言葉になったのかもしれません。沖縄でくしゃみをしたら、返る「くすけー!」は叱責ではなく祝福です。強い言い方になったのは、マジムンを追い払うための言葉だった名残です。

参考資料・出典

沖縄県立博物館・美術館「クスケー由来(シマグチ)」:閻魔王が「くすけひゃー」と言えばマブイは取れないと教えた民話。

沖縄市「クスケー由来」:山原の伝承。クシャミをしたらクスケー、2回したらメークェー。

国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」:くしゃみとクスクェーの伝承カード。沖縄県史民俗篇に「糞食らえ」とある。

よくある質問

Q. 「くすけー」とはどういう意味ですか?
くしゃみをした人にかける沖縄の言葉で、意訳すると「お大事に」です。英語圏でくしゃみに「Bless you」と声をかけるのと同じ、相手を気遣う言葉です。初対面の人にも声をかけられ、くしゃみが連発すれば「くすけー、くすけー」と何度でも続きます。
Q. なぜくしゃみに言葉をかけるのですか?
沖縄では、くしゃみをすると魂(マブイ)が身体から抜け出てしまい、抜けた魂をマジムン(悪霊・魔物)が奪おうと待ち構えている、と考えられてきたからです。「くすけー」と唱えてマジムンを追い払い、魂を守ろうとした風習です。
Q. 「くすけー」の直訳は何ですか?
沖縄県史の民俗篇を引く伝承カードでは「クスクェー(糞食らえ)」と要約されています。強い言葉になったのは、魂を奪おうとするマジムンに向かって放たれる言葉だったからのようです。実際の使われ方は叱責ではなく、「お大事に」「ご加護を」という思いやりの言葉です。
Q. くすけーの由来の民話とは?
沖縄県立博物館・美術館が記録した民話では、後生の閻魔王が「人間はくしゃみをしたらすぐ『くすけひゃー』というから、魂(マブイ)は取れない」と明かしてしまったことが始まりとされます。沖縄市の伝承では、くしゃみをしたら「クスケー」、2回したら「メークェー」と唱えるよう教わった妻が、子どもの魂を守った話が伝わっています。