クイナの日に知る、ヤンバルクイナの45年──発見のドラマから絶滅の淵からの回復まで

9月17日は、国頭村が定めた「ヤンバルクイナの日」。沖縄本島北部・やんばるの森にだけ生息する、飛べない鳥に思いを寄せる日です。1981年に新種として発表されてから45年。いったん絶滅の淵まで追い込まれたこの鳥は、なぜ数を取り戻しつつあるのでしょうか。発見のドラマから、いまも続く保護活動までたどります。
発見の決め手は、地元に届いた一羽の死骸
ヤンバルクイナは、地元の人たちにとっては新種として発表される前から知られた存在でした。山仕事をする人々は、慌てて駆け出す姿から「アガチ(慌て者)」、あるいは「ヤマドゥイ(山の鳥)」と呼んでいたといいます。
学術的な発見が動き出したのは1981年。山階鳥類研究所の調査チームが成鳥と幼鳥を捕獲し、詳しく測定・観察しました。その直前、国頭村の山中で拾われた死骸が本部高校の教員・友利哲夫さんのもとに届き、剥製標本になっていたことも大きな手がかりになりました。捕獲個体と標本を突き合わせた結果、これまで知られていなかったクイナ科の鳥だと判明。1981年12月、研究報告に新種として記載されました。
全長は約30cm。赤いくちばしと脚、胸から腹にかけての白黒の横じまが印象的です。翼はあるものの飛ぶ力は弱く、地上を走って暮らします。分類上の学名は文献により属名の表記が異なりますが、沖縄島北部だけに分布する日本固有の鳥であることは変わりません。
飛べない進化が、島での弱さになった
天敵の少ない島で、飛ぶための翼や筋肉よりも地上を走る脚を発達させたヤンバルクイナ。その進化は、外から捕食者が持ち込まれたときに大きな弱点となりました。
特に深刻だったのが、ハブ対策などのために沖縄島へ移入されたジャワマングースです。昼行性で地上に巣をつくるヤンバルクイナにとって、地面を移動するマングースは脅威になりました。さらに、飛んで道路を避けられないため、林道や県道での交通事故も重なります。推定個体数は1986年の約1,800羽から、2005年には約720羽まで減少。現在も環境省レッドリストの絶滅危惧IA類に分類されています。
絶滅の淵から約1,700羽へ。人と技術の20年
転機となったのが、2004年に始まった保護増殖事業です。柱は三つ。まず、北上防止柵(SFライン)やわな、探索犬などによるマングース防除。次に、飼育下での人工ふ化・育雛など繁殖技術の確立。そして、クイナが道路へ出にくくする侵入防止フェンスやアンダーパスなどの交通事故対策です。
地道な対策の積み重ねは、分布域と個体数の回復に表れました。環境省の調査では、2021年時点の生息数は約1,700羽まで回復したと推定されています。マングースの影響が薄れた地域で繁殖が確認されるなど、希少種保全の成果が見え始めた例です。ただし、ノネコやハシブトガラスによる捕食、交通事故の危険は残っています。回復はゴールではなく、見守りを続けるための新しいスタートなのです。
旅の途中で「本物」に会うなら、クイナの森へ
国頭村安田の「ヤンバルクイナ生態展示学習施設 クイナの森」では、生きたヤンバルクイナを自然に近い環境で観察できます。環境省の案内では利用料は大人500円、小中高生200円(料金や開館状況は訪問前に最新情報をご確認ください)。展示を見ることは、保護や飼育繁殖の取り組みを知ることにもつながります。
やんばる世界遺産センター ウフギー自然館では、地域の自然や希少な生き物について学べます。辺戸岬では、天気がよければ与論島を望む景色も楽しめます。野生のヤンバルクイナを探すときは、森へ踏み込みすぎず、鳴き声や姿を追いかけないことが大切です。
そして、やんばるを車で走るときはスピードを控えめに。道路を渡る飛べない鳥に気づいたら、急ブレーキにも備えてください。クイナの日に私たちができる、いちばん身近な保護活動です。
まとめ
ヤンバルクイナは、地元の人に知られていた一羽の鳥が、標本と調査によって新種として認められ、絶滅の危機を人と技術の力で乗り越えつつある物語です。約1,700羽まで回復したいまも、森と道路を静かに見守ることが、この鳥の未来を支えます。
山階鳥類研究所「所蔵名品から19 ヤンバルクイナ」 / 山階鳥類研究所研究報告「沖縄島で発見されたクイナ類の1新種」 / 環境省「名護市内におけるヤンバルクイナの初確認について」 / 環境省「やんばる国立公園 アクセス・施設」 / 環境省「既存のロードキル対策のレビューと今後の対応方針」


